nobody knows diary

神経心理学や言語病理学について、読んだ論文をまとめています。

抗NMDA受容体脳炎と精神症状の関係

筒井幸ら:抗NMDA受容体脳炎と精神症状.精神医学,57:795-801,2015

 

 抗N-methyl D-aspartate (NMDA)受容体脳炎という新たな疾患概念は、2007年Dalmauらにより提唱された。本疾患は辺縁系を首座とする自己免疫性の脳炎で、意識障害のほか、精神症状、けいれん発作、自律神経症状、不随意運動などの多彩な症状を呈する。当初、本疾患は卵巣奇形腫を伴う傍腫瘍性の辺縁系脳炎と考えられたが、症例報告が増えるにつれ腫瘍を伴わないケースもあることが分かってきた。

 

 本疾患は経過中に気分の変調や統合失調症を疑わせる精神症状を呈することが多い。このため、精神科がかかわる頻度が7割を超える器質性精神疾患でもある。また症例数は限られているものの、経過を通して精神症状のみ、てんかん発作のみ生じるケースも知られている。典型例であってもMRI上異常を指摘されないことが3割あり、これらの患者が精神症状のみ呈した場合は、自己免疫性辺縁系脳炎の可能性が見逃されてしまうこともある。

 

 男女比は2:8、平均年齢21歳と、若年女性に多い疾患である。18歳以下は37%、45歳以上は5%と若年から壮年までの発症が大半だが、老年期発症のケースもある。腫瘍の合併するケースは全体の4割で、そのうち大半(96%)が卵巣奇形腫である。

 

 典型的な抗NMDA受容体脳炎の経過としては、感冒様症状のあと、抑うつ状態様の症状を呈し、幻覚妄想状態を伴い顕在化する。幻聴、幻視、妄想、気分の易変性などを生じ初発の統合失調症が疑われることもあり、当初は精神科受診、精神科専門病院への入院となることも多い。

 

【検査所見】

・病初期には、血液検査には大きな問題を認めないことが多い。

MRIでは66%に異常が指揮され、側頭葉内側の異常が多いが、本脳炎に特異的といえる所見はない。

EEGは有用で、典型例は全般性の徐波を生じる。だがEEG正常のケースもいる。

 

【診断】

 患者の髄液、血清からIgG抗体を同定することで確定診断となる。抗NMDA受容体に対するIgG抗体測定は、ヒト胎児腎細胞にNMDA受容体のサブユニットであるGluN1とGluN2を共発現させるcell-based assay(CBA)などにより行われる。CBAは4日が必要で、国内では測定できる施設が限られている(金沢医科大学秋田大学)。

 まずは急性期のサンプルを採取し、感染性脳炎髄膜炎が否定されたところで速やかに免疫療法を施行、確定診断は後日という形をとることも多い。

 

【治療と予後】

 免疫療法をおこなうことで良好な予後が期待できる。卵巣奇形腫などの腫瘍合併例では腫瘍の切除が望ましい。免疫療法として1st lineはステロイドパルス療法、血漿交換、免疫グロブリン大量療法(IVIG)、2nd lineはリツキシマブ、シクロフォスファミド投与が推奨されている。

 長期予後としては、寛解~軽度の後遺症をのこすものが8割と大半で、致死率は4~7%である。

 

【精神科領域からの提言】

 Kruse(2015)は、精神科患者で抗NMDA受容体脳炎が疑われた12例について、気分、思考、言語に関する症状とカタトニア症状が特徴であったと報告している。確定診断の前に9例は精神科の適応と判断されており、1例を除く全例が精神科あるいは内科入院となっていた。

 12例全例が言語や発語の異常を生じており、発語量の減少も伴った。それに加え、発症当初の多弁sな、繰り返しあるいは保続様の発語、反響言語、新作言語、喚語困難など、多彩な言語症状を認めた。認知機能障害は全例で認められており、神経症状は11例で指摘され、異常運動、けいれん、感覚の障害などがそれにあたる。

 本疾患は統合失調症様症状が華々しいことも多いため、気分の異常や言語・発語障害の評価は二の次になりがちである。しかし、臨床経過と症状を詳細に診察・聴取し、異常体験に加え気分症状や、言語や発語の異常などに関しても注意深くあるべきと思われる。

 

(感想)

これまで抗NMDA受容体脳炎について知らな過ぎた。精神症状が華々しい場合、神経内科の先生に『心療内科精神科医のコンサルを一刻もはやくお願いします!我々STにできることはありません!』って思っていたけど、精神症状にマスクされた認知機能や言語の異常をしっかり評価することがSTの大切な役割なんだな。