読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

nobody knows diary

神経心理学とその周辺のことについて、読んだ論文をまとめていきます。

Feinbergが報告するフレゴリ症候群の一例

Todd E. Feinberg, Lisa A. Eaton, David M. Roane and Joseph T. Giacino:

Multiple Fregoli delusions after traumatic brain injury. Cortex, 35: 373-387, 1999

 

背景

 

フレゴリ症候群は妄想性同定錯語症候群(以下、DMSと略す)の一つである。DMSには他にカプグラ症候群や相互変身症候群、自己分身症候群、重複記憶錯誤(筆者はこのRPをDMSに入れる立場をとっているよう)が含まれており、これらを呈す患者はいずれも、人や場所、事物の同定を誤ったり、重複させたりしてしまう。

近年、カプグラ症候群と神経疾患の関連性が論じられるようになったが、フレゴリの錯覚につてはまだ十分な検討がなされていない。

筆者らは頭部外傷後にフレゴリの錯覚を呈した症例に対して、詳細な神経心理学的検査をおこない、フレゴリ症候群の神経病理学的基盤を明らかにしようとしている。

 

症例

 

61歳、右利き、男性。階段から転落し、頭部外傷を負った。CTでは右前頭葉に大きな脳挫傷、左側頭-頭頂葉にも小さな脳挫傷が認められた。

 

神経心理学的所見(受傷3か月後に実施)

 

注意:数字の順唱や指示課題など基本的な注意機能を調べる検査では平均的な成績であったが、逆唱などの二重課題やセットの転換を要する課題ではエラーが目立った。

記憶:単語16語のリストを見た後に自由に想起する課題では、対象そのものの想起ができずに意味的に関連する単語を答えることが多かった。また性的な単語を答えるなど脱抑制的な言動もあった。視覚性記銘を調べる検査では、20分後の遅延再生が特に不良であった。

言語:日常会話は話題の逸脱が多く、また意味性錯語や新造語も散見された。呼称課題は錯語や性的な単語で答えるなどがあり、平均範囲内下のレベル。理解面は統語構造が複雑になると困難となったが、これは作動記憶の問題で二次的に生じているものと考えらえた。

実行機能:概念化、推論、自己モニタリング、思考の柔軟性を調べる検査は境界から重度障害のレベルであった(←WCSTやWAIS-Rで検索している)。

 

フレゴリの錯覚

 

患者の呈したフレゴリの錯覚は、バリエーションに富んでおり、病院関係者やその他見知らぬ人物を、家族、同僚、知人、自己へ誤認することがあった。

家族への誤認:車いすに縛り付けられた青年を自分の次男坊であると主張したり、テレビの中の闘う男の一人が自分の長男坊であると主張。

同僚への誤認:車いすに乗車した患者のことをかつての同僚であると言った。彼はかつての同僚とこの患者は見た目が違っていることを認識できていたにもかかわらず、同一人物であると主張していた。

知人への誤認:リハビリセンターの関係者を昔からの知り合いに誤認していた。リハセンター長を彼の住む町の町長に、ソーシャルワーカーをかつての上司に誤認しており、おもしろいことに双方の社会的地位には通ずるところがあった。

自分への誤認:テレビにうつるプロのアイススケーターを自分であると言った。

 

その他の誤認

 

見当識を問うと重複記憶錯誤の徴候が認められた。「自分がHartwyckの病院に入院したことがあったが、それは私が思っていたのとは違かった。それはHartwyckのちょうど隣にあるもう一つの別の病院である」と語り、またある時は3つの病院に行ったがそれはみなHartwyckであったと言った。

 

考察

 

本例に対して神経心理学的評価をおこなった結果、重度の実行機能障害と記憶障害を認めた。患者は脱抑制的で思考の逸脱があり、保続やコミッションエラーも多くあった。モニタリングや選択能力が低く、連合弛緩の傾向があった。また一度に数分間のメンタルセットの持続も不能であった。記憶が悪いことで、現在進行形の経験を記憶にとどめることが難しく、このことが自己の内的な思考・感情を外界の出来事と照らし合わせながら考え評価することを難しくしていたと思われる。

ではこの実行機能障害と記憶障害が、DMSの一つであるフレゴリ症候群とどのように関係するのだろうか。ここでは、同じくDMSの一つであるカプグラ症候群の患者と神経心理学的所見を比較し、実行機能と記憶の悪さが共通していることを指摘している。しかし、カプグラ症候群は親近性の否認であり、フレゴリ症候群は過度の関係性を示すもので、両者の方向性の違いが生まれるゆえんは何なのか。

この疑問に対して、筆者らは動機の重要性を強調している。PatersonとZangwill(1944)の中で、地図の上ではスコットランドの病院に入院していることを認めるが、同時にイングランドにある自分の住む町に位置していると言う症例が紹介されている。この失見当識は他の認知機能が改善した後も残存しており、これは彼が家に帰りたいという強い思い故であったと説く。WeinsteinとKahn(1955)は病態失認や、否認、作話や重複記憶錯誤を呈す患者にとっては、動機がづけ要因が重要であるとしている。RuffとVolpe(1981)は病院を自宅の中にあると信じた症例が紹介しているが、これも家に帰りたいと言う強い欲求があったからであるとしている。本例は、自己の障害をかえりみず、何度も仕事に戻りたいと言っていた。実際彼のフレゴリの錯覚は同僚への誤認が多く、彼の作話は動機づけ要因に影響されていた可能性がある。

 

((つぶやき))

・動機付け要因が作話内容与える影響について考えること。

・Feinbergのような詳細な神経心理学的評価を行えていないことをしっかり自覚すること。

モゴモゴモゴ・・・。