nobody knows diary

神経心理学や言語病理学について、読んだ論文をまとめています。

妄想の展開

Owen Box, Hana Laing and Michael Kopelman:

The Evolusion of Spontaneous Confabulation, Delusional Misientification and a Related Delusion in a Case of Severe Head Injury.

Neurocase 1999; 5: 251-262

 

背景

妄想や作話と前頭葉機能障害の関係性について論じる神経心理学的研究はたくさんある。そしてその研究のほとんどが、「ある一時」の精神症状、認知機能テスト、脳画像所見に基づいて論じられており、時間の経過に伴う「変化」に着目した研究は殆んどない。

今回筆者らは、重症脳外傷の女性で、右腹内側前頭葉に主たる損傷があり、そのほか左腹内側、右背外側領域も障害された一例について報告する。患者は作話とフレゴリの錯覚を呈し、それに続いて自分のいとこが病院に住んでいると言う妄想も展開した。

本稿では、従来あまり取り上げられなかった、作話や妄想が時間の経過とともに変化している点について検討している。

 

症例

 

27歳、女性。マデイラ(母語ポルトガル語)から英語を学ぶためにロンドンに来ていた。交通事故のため主に右前頭葉(腹内側と背外側いずれもふくむ)と、左前頭葉の一部を損傷し、右放線冠にも脳梗塞を認めた。

彼女は、抑制障害、注意障害、健忘のほかに、作話や妄想を呈した。

一度だけではあったが、自分はもう死んでいると信じてしまうこともあり(➡コタール妄想)、これは父親が誤って彼女が事故で死んでしまったものと思ったという話をしたあとだった。

もっと長く続いたのは、向かいのベッドの高齢女性を自身の母親と誤認する妄想であった。彼女はこの高齢女性と同じベッドで寝ようとしたり、母語であるポルトガル語で話しかけたりした。当然この高齢女性はポルトガル語が分からなかったが、それでも彼女は信じ続けた。

さらには彼女には私生児がいたと信じるようになり、その子が病院のどこかにいると言うようになった。その後すぐ、その子は従兄の子どもであると言う考えに代わり、従兄が死んでしまったから自分がその子を見なくてはいけないと信じるようになった。

母親の誤認は約一ヵ月で落ち着いたが、従兄の子どもがいるとの妄想は約二か月間続いた。

 

認知機能検査

 

一般的な知能を調べる検査の他に、視空間認知機能、前頭葉機能、記憶、作話を調べる検査が行われた(ちなみにこれらの検査は1997年11月~1998年5月の間に実施されているが、1997年11月の時点で既に作話や妄想は軽快しているが・・・)。

フォローアップの結果、推論能力や視空間認知機能は一部の検査では改善が認められた。前向性健忘は殆んど良くならなかったが、作話傾向は消失していた。

 

考察

本例の健忘や視知覚、前頭葉機能障害は妄想などの異常な考えが消失してからも暫らく残存していた。このことは、これら認知機能障害が作話や誤認妄想の発生にとって必要な条件ではあるけれども、それだけでは作話や妄想の発生や消失を説明することはできないということを意味している。

作話や妄想についての神経心理学的に考える時は、“静的”な認知機能障害とそれに関連する病巣だけで考えようとするのではなく、作話や妄想が時間の経過とともにどのように発生し、展開し、消失していったのかという“動的”な側面にも注目する必要がある。

 

~自分のstudyに役立ちそうな記述~

彼女は入院当初錯乱状態におり、このときにたくさんの作話が生まれている。…(中略)…向かいのベッドの患者が自分の母親であると信じたフレゴリの錯覚が生じたのもまさにこの錯乱状態の時であった。

 

《つぶやき》

一読した時はフレゴリのケースレポートとしてしか見ていなかったけど、再読してみて妄想の「発展」に着目した論文であったことに気付いた。?さんの場合も時間の経過とともに妄想内容も変わってきていた。この点を取りこぼさず論ずる必要があると思われる。