nobody knows diary

神経心理学とその周辺のことについて、読んだ論文をまとめていきます。

脳梗塞後に生じたフレゴリの錯覚

Karel w. de Pauw, T. Krystyna Szulecka, Tracy L. Pltock: Fregoli Syndrome after Cerebral Infarction. The Journal of Nervous and Mental Disease 1987, 433-438.

 

背景

 

フレゴリの錯覚の特徴は、既知の人物が未知の人物に変装していると確信することで、現象学的にはカプグラ症候群や相互変身妄想などの誤認妄想と密接に関連していると言われている。

従来(この論文の発表される以前のこと)これら誤認妄想を説明する際には、精神力動学的/脳器質因的の二項対立的な考え方がなされていた。

しかし、筆者らはこのような二項対立的な考え方に否定的で、フレゴリの錯覚を呈する患者の背景には、心理社会的要因をはじめ、もともとのパーソナリティ、神経学的要因など多数の要因が、互いに影響し合っていると主張する。

 

症例

 

66歳、右利きの未亡人、Mrs. C。1985年5月、精神科外来患者として来院するも、予約時間より1時間近く遅れてやってきた。彼女は追跡者を振り切るために町や病院の周りを複雑に回り道しなくてはならなかったからだ。この4か月前、彼女は、彼女の従兄(既婚者)が不倫相手の女と近所に移り住み、変装して彼女を尾行しているという確信を持った。

彼女はいかにして二人が化粧やかつら、サングラス、付け髭や様々な衣装を用いて変装しているかについて、非常に細かいところまで語った。

彼女は二人をまなざしや声、頭を抱える仕草などの特徴で見分けることができると述べた。「彼らは服や髪形を変え続けているけど、私には彼らだって分かるの」と。

Mrs. Cは6人姉弟に生まれて、子供の頃のリウマチ熱のためにしっかりとした教育が受けられず、主に使用人などとして働いていた。24歳の時仕事嫌いで酒好きの男と結婚し、8年後に分かれている。その3年後、未婚のままに娘を持ち、この子は実の姉が育てた。Mrs. Cはこの子の父親がよその女と結婚しても20年にわたってその男と会い続け、(理由は定かでないが)10年前に二人の関係は終わった。後に明らかになったことだが、その男こそ彼女が追っ手であると言っていた例の従兄であった。

彼女は、1955~1983年の間に4回ほど、不安と抑うつの為に精神科外来患者として治療を受けていた。病前の性格は周囲とは打ち解けず、激しやすいところがあり、他者の行動に敏感だった。家族に精神疾患を持つものはなかった。1982年には左の前頭領域に血腫が見つかっている。1984年には右側頭‐頭頂葉後方の脳梗塞を発症していた。

 

考察

 

フレゴリ症候群は統合失調症との関連で論じられることが多いが、本例は統合失調症のような思考障害や幻覚、感情の鈍麻などはなく、妄想内容も普通ではないものの統合失調症患者の抱く空想的な妄想内容と比べると、より現実味を帯びた内容だった。

それゆえ、右半球の病理により二次的に生じたパラノイアもしくは妄想性障害と診断する方が妥当と思われる。

 

~以下は私の今後のstudyに有益と思われた記述~

 

・「病巣の大きさや場所よりも脳萎縮の方が妄想の発生を決定づけることが分かっており、このことからLevin and Grek(1984)はこのような精神病理は限局性病変とより広範な脳萎縮の相互作用によるところが大きいと考えた。」

 

・「フレゴリの錯覚とenvironmental reduplication(新規に知った場所が既知の場所の近くもしくは中にあると考える妄想)には共通点があり、実際に人と場所の妄想性誤認が同一の患者に生じているという報告もある(de Pauw and Szulecka,1988. Joseph, 1985, 1986b. Ruff and Volpe, 1981)」

 

・「一過性の混乱状態や記憶喪失の期間に知覚された物事は、関連する過去の経験や記憶と誤って統合されてしまうことがある。この初期の状態から誤認妄想は発生・展開していき、現実喪失感や病前からの疑り深さ、願望充足や精神病理などによりさまざまに修飾されていく。